「中国人」になりたくない「香港人」

「香港人は犬」発言で中国への怒り爆発

 香港返還から15年がたった今も、香港の人々は自分たちを本土の中国人とは別ものだと考えている。香港大学の最近の調査によれば、回答者の中で自らを 「香港市民」と認識する人の割合は過去10年でもっとも高くなっている。一方で自分が「中国人」であると考えている人は、過去12年で最低の割合となった。

内面的に彼らが常に抱えている問題は、些細なことでこうやって表面化する。

中国はひとつじゃない

香港に限らず、上海で生まれ育ったひとは自らを「上海人」と言って憚らない。出身地・民族が異なる複数の中国人と親しくしているなら、彼らを「中国人」と一括りにすることが難しい事を知っているだろう。僕と親しい若い世代の上海人や香港人に向かって「中国人って~」と言うと、自分は中国人じゃなくて「上海(香港)人」と訂正される。彼らも自分の生まれ育った場所以外のひとのことなど知らないし理解できないから、日本に来て自分が13億の中の一人として見られることに戸惑う。

香港人にとっては中国は近くて遠い国で、記事本文にあるように一部の香港人は「中国本土の中国人」を同類と見なしていない。1997年の植民地返還をイギリスに見捨てられたと感じ、当時、能力・金銭的に余裕のあった香港人で中国化する香港を見越して国外に出たひとは少なくない。僕の知る香港人は「中国本土の中国人」を「大陸人」と差別的な意味を込めて呼び、香港への入場をもっと制限して欲しいと切に願っている。
現在は中国人が香港へ入るにはビザが必要であり、家族がいなければ居住することはなかなか認められない。だが中国で妊娠し、香港市民権を得るために香港に駆け込んで出産する妊婦が後を絶たず、国境(そう言っていい)近くの病院が込み合うことは社会問題のひとつだ。安い労働力・低いモラルの流入を避けたい香港。いま中国と同一化することは香港の国際的なレベルを下げるだけでメリットに乏しい(そもそもあるだろうか?)。

中国はこれからもひとつになれない

一方「中国本土の中国人」はどう思っているか?北京大学の孔慶東(コン・チントン)教授は分かりやすい。彼らは「香港人」や「上海人」などというアイデンティティは認めず、あくまでひとつの「中国人」しか認めたがらない。その上で同じ中国人なのに格差が存在するのは許せず、中国より偉いと思っている香港人は気に食わない。その結果、奴らは犬(中国では最大レベルの蔑称)だ、という。

中国は50年は香港に内政干渉しないと言っているが、現実は違うというのが香港人の意見だ。徐々に大陸からの圧力は強まっている。より対立は深まり、終わりのない差別と嫌悪を互いに抱き続ける。それが中国の現実のひとつだ。